アストリアはなぜマルスの反逆を信じたのか

 グルニアを解放したアリティア軍は、カシミアでアストリア率いる傭兵隊と戦闘になります。このときアストリアはマルス達を「裏切り者」と呼んでおり、アカネイアに対し反逆を企てた大罪人と考えています。アストリアはジョルジュと同様にニーナに忠誠を誓い、ハーディンの横暴に反発心を抱いている点で共通していますが、マルスに対する言動はジョルジュと対照的に描かれています。

 また、カダインのエルレーンはアリティアを「帝国に楯突いた国」だと思っており、ハーディンの部下達も、ロシェを除いてマルスは反逆者と考えています。

 なぜアストリア達はマルスを反逆者と信じこんでしまったでしょうか?
 戦後のアカネイア軍の状況、そしてアカネイア人の目から見たマルスという存在から、この理由を考察します。

† アストリア達の認識 †

 プレイヤー視点では、マルスの反逆はでっち上げもいいところで、アリティア陥落は卑劣極まりない侵略です。そしてマルスに攻撃を仕掛けてくる者達――アストリアにエルレーン、狼騎士団は頑迷で視野狭窄に陥っているように見えます。
 しかし、彼らの立場からすれば、アカネイア皇帝の発表を疑ってまでマルスを信じる理由がないのです。

[アストリア]
 だがジョルジュよ、もしハーディンの言うとおりこの戦いがマルス王子の野心からはじまったものであれば決して貴様を許さない!

―ファイアーエムブレム紋章の謎・第2部16章「王都奪回」―

[エルレーン]
 アリティアだと!? アカネイア帝国にそむき侵略をくわだてた国をなぜ我らが助けねばならん。我らカダイン魔道軍はハーディン皇帝に忠誠を誓っているのだぞ。
 そうか…やはり貴様か…貴様がアリティア軍を引き入れたのだな!

―ファイアーエムブレム紋章の謎・第2部10章「魔道士二人」―

[ザガロ]
 マルス王子はアカネイアを滅ぼして、世界をわが手にと考えているのだ。そのためにマケドニアと手をくみ、グルニアを制圧した。

―ファイアーエムブレム紋章の謎・第2部18章「峠の戦い」―

 オレルアン騎士達は「マルスによる世界征服」を信じており、ハーディンを守るためにアリティア軍に攻撃を仕掛けてきます。二の足を踏むロシェに対し「あの方が嘘を言っていると言うのか」と怒りますが、彼らはハーディンから直接命令を下されたわけではありません。それでも彼らが「命令」に盲従するのは、ハーディンが卑怯な真似をするはずがないと信じているからです。
 ザガロ達とてハーディンのやり方に疑問を感じてはいたのでしょう。それでもマルスの反逆を信じ、強い敵意をあらわにするのは、いわば防衛反応のようなものと考えられます。もし、マルス反逆が虚偽ならば、彼らがこれまで信じてきたものが全て崩れ、心の拠り所が失われてしまうからです。

 アストリアの場合、ザガロ達のようにハーディンへの忠誠心はありませんが、かつてはハーディンに信頼を寄せていたはずです。これは多くのアカネイア貴族や民も同様でしょう。にもかかわらず、王となって以降、豹変したハーディンに彼らは失望し、憤懣を抱えてきました。
 それでもニーナに選ばれ、神聖なるアカネイア王となった者が、単なる侵略目的でアリティアを攻め入ることはない、そうアストリアは信じていたのでしょう。アカネイアという偉大な祖国への盲信ゆえにマルス反逆を信じざるをえなかったのです。

 エルレーンの場合、マルスの反逆を信じたのは「マリクの祖国であるアリティアの王子だから」でもあるのでしょう。マリクの汚点となりうるものを信じたい、そんな心理もあったのかもしれません。

 このように、彼らの背景はそれぞれ違いますが、「真実どころか事実さえ知らない」という点で共通しています。彼らの知る事実は全て伝え聞いたものであり、真偽すら定かでないものばかりなのです。全てが伝聞にすぎないからこそ、彼らは自分の信じたいものだけを信じるしかなかったのでしょう。
 マルスにしても、ロレンスからハーディンの変貌を聞かされても本気にせず、全てラングの暴走だと考えていました。パレスに行き、直接ラングの悪事を訴えれば、グルニアの問題は解決すると思っていたのです。信じたいものしか信じなかった結果、罠にはめられたと言えるでしょう。

† 情報統制 †

 アストリア達が視野狭窄に陥ってしまったのは、情報を遮断された状態にあったことが原因と考えられます。とりわけグルニアの内情は情報統制によって容易に知りえなかったのでしょう。

 まずグルニアの反乱ですが、真実は「ラングの圧政に耐えかねた蜂起」ですが、アカネイア本国の人間には「グルニア王家の再興をもくろんだロレンスが帝国に楯突いた事件」と認識されています。
 むろん、ラングという評判の悪い人物を占領軍司令官とした皇帝の決定に対し、多くの貴族が疑問を抱いたはずです。しかしグルニアは辺境であり、ラングの悪行は本国にまで届いていなかったのでしょう。
 これは、グルニアから比較的近い距離にあるアリティアも同様です。マルス達は自国の復興に注力し、他国に目を向ける余裕がなかったとはいえ、グルニアの惨状を全く知りませんでした。

 ロレンスがアカネイアと対立の末に追放され、グルニアがアカネイアの支配下に置かれたことはマルスも知っていました。グルニアがアカネイアを滅ぼした国である以上、いかに自治が許されたとはいえ、なんらかのきっかけで両国に軋轢が生じうるかもしれない、そうマルスも懸念していたと思われます。
 しかし、反乱の首謀者をラングに教えられるまで知らなかったことから、グルニアの内情はほとんど国外に伝わっていなかったのでしょう。外部に情報が漏れぬよう箝口令が敷かれ、グルニアへの人の出入りも制限されていたのかもしれません。

 ジョルジュはラングの命令に応じずに見捨て、カシミア大橋では、マルスが窮地に陥る中で寝返りましたが、彼がこのような行動をとるに至ったのは、ラングがグルニアの民を奴隷同然に扱うさまを目の当たりにしてきたからでしょう。彼の誇りが、変わってしまったアカネイアに与することを許さなかったのです。
 一方、アストリアがマルスを「裏切り者」と謗り、部下とともにアリティア軍を追討するのは、ジョルジュよりも限られた情報しか与えられず、ただ命令に従うしかできない状況にあったからと考えられます。

§ アストリアがカシミアに派遣された経緯  §

 カシミアに駐留していたアストリアと配下の傭兵隊は、ハーディンの命令でアリティア軍への攻撃を開始します。海を隔てたカダインまで追討してくる執拗な様子から、アストリアはなんの迷いも抱いていないようにも見えます。しかし、のちのジョルジュとの会話では、アリティアとの戦いに対し葛藤があったとうかがえます。

[ジョルジュ]
 何のために…誰のために戦う? ハーディン皇帝のためにか?

[アストリア]
 違う! あんな男のためではない。ニーナ様のため…アカネイアのためにだ!!

[ジョルジュ]
 しかしニーナ様がお前に戦えと言われたのか。ニーナ様がこのような戦いを望まれると思うのか。

[アストリア]
 それは…ニーナ様とはしばらくお会いしていない。ご病気ということでお会いできないのだ。しかし…ハーディンがアカネイア国の王である以上しかたなかろう。その命令に従わずば国を裏切ることになる。ニーナ様を裏切ることになる。

[ジョルジュ]
 アストリアよ、ニーナ様は既にマルス王子にエムブレムを託されたのだ。わかるか…その意味が。

[アストリア]
 な、なんだと!! どういうことだジョルジュ。ニーナ様がマルス王子に助けを求めているとでも?

―ファイアーエムブレム紋章の謎・第2部16章「王都奪回」―

 アストリアがパレスを発ったとき、既にニーナは外部との接触が断たれていたようです。ニーナはエムブレムを持ち出したためハーディンに監禁されたわけですが、ハーディンがそれを知ったのはカシミア大橋でマルスと直接まみえたときでしょう。となると、ニーナはエムブレムの件で監禁される以前から、表に姿を見せない状態になっていたと考えられます。
 諸国侵略に急激な軍備拡大、それに歯向かう貴族の処刑。変貌してしまったハーディンを見かね、ニーナが口を挟むことはあったのでしょう。貴族達も、ハーディンを諫めてくれるようニーナを頼ろうとしたはずです。ゆえにハーディンは、「病気」と偽りニーナを表舞台から遠ざけたのです。

 ハーディンが皇帝と名乗るころには、ジョルジュにアストリア、ミディアといった忠臣さえ、容易にニーナとは接触できないようになっていたと思われます。本来、ニーナを守るべきアストリアやジョルジュが国外に遣られたのは、ニーナから引き離すためにほかなりません。ミディアだけはパレスに留まっていましたが、彼女は既に騎士を辞しており、遠征軍に加えることができなかったからでしょう。
 ニーナがリンダを使者としたのは、身近な頼れる者が女官であるリンダしかいなかったからです。

 加えて、アストリアはミディアとも引き離されていたようです。

[民家]
 ミディア様は気の毒じゃな。騎士をやめてアストリアと一緒になったばかりなのにまた引き裂かれてしもうた。

―ファイアーエムブレム紋章の謎・第2部19章「最後の決戦」―

 普通、「一緒になった」とは結婚を意味しますが、第2部の後日談によると、二人が正式に結婚したのは英雄戦争後です。暗黒戦争終結からほどなくしてニーナがハーディンと結婚し、アカネイアが再興されました。悲願が叶ったことで、アストリアとミディアも自分達の幸せを考えるようになり、婚約を発表したのでしょう。そんな彼らを民も祝福していました。
 その矢先、ハーディンは近隣の弱小国の併合に取りかかります。第2部のオープニングの画像やジョルジュのセリフから察するに、併合には武力が用いられています。また、公式ガイドブックの「聖騎士ジェイガンの日記」において「小規模ながら各国で反乱が相次いでいる」との記述があります、これはアカネイア帝国の侵略に対する武力蜂起であり、その鎮圧にアストリアをはじめ多くの騎士達は駆り出されていたのでしょう。

 そんな中で「マルス反逆の報」がもたらされ、アストリアはアリティア討伐に派遣されることになるのです。アリティアを陥落させたのちは、カシミア大橋へ向かわされ、グルニアから北上してくるマルス達を討ちとるべく待ち構えていました。

 ただ、アストリアはアリティア討伐に乗り気ではなかったのかもしれません。ハーディンの命が下るまで持ち場を離れなかったことから、彼には迷いがあったように見えます。
 迷いを抱きながらもマルス達を執拗に追討したのは、命令に背けば「有無を言わさず処刑」されるからです。加えて、パレスに残してきたミディアが人質同然の状態にあります。ハーディンの命令に背くことは祖国とニーナを裏切るのと同じ、そう自分に言い聞かせ、耐え忍んできたのでしょう。そんな状況への苛立ちが「裏切り者のマルス」へと向けられたのです。

 これに対し、ジョルジュはオルベルン城周辺の守備についていることから、アリティア討伐の遠征軍には加わっておらず、アストリアよりも早くグルニア方面に派遣されていたと思われます。例えば、グルニアで反乱が起きた際の鎮圧部隊、もしくはロレンスが追放された際の占領軍としてでしょう。
 ロレンスの追放は自治権の剥奪を意味し、グルニアの騎士・民の反発も大きかったはずです。それを抑えるための部隊として、ラング配下の占領軍とともにジョルジュの弓兵隊が加えられたのでしょう。そこでラングが「民を奴隷のように扱う」様子を目の当たりにしたのです。

§ アカネイア視点でマルスの行動  §

 そもそもアカネイア視点でマルスの一連の行動を見れば、反逆と受けとられてもやむをえない面もあります。

 マルスは皇帝命令で、アリティアの主力軍を率いてグルニアの反乱鎮圧に向かいました。結果として、反乱は鎮圧したものの、ロレンスはマルスに討たれたわけではなく自決しました。ラングは「ロレンスを討て」とマルスに指示していたにもかかわらず、降伏を呼びかけ、その結果ロレンスに自決を許してしまったのです。
 砦の制圧後、マルスは王家の遺児の取り扱いをめぐり、ラングと一悶着を起こしています。その場では大事にはなりませんでしたが、アリティア側はラングに対し武力をもって横暴を阻止するという姿勢をとっていました。それは「グルニア再興をもくろんだ反逆者ロレンスの味方をした」も同然であり、これが客観的事実としてアカネイア本国に伝えられてしまったのでしょう。

 その後、ラングのマケドニア遠征中、双子はオグマによって救出されています。オグマはタリスの傭兵で、暗黒戦争時はマルスの配下でした。そしてマルスの婚約者はタリス王女のシーダです。この状況では、マルスの指示で双子を逃がしたと思われてもやむをえないでしょう。

 アカネイア人は、先の戦争によりグルニアに強い恨みを抱いています。加えてアストリアの場合、ミディアを人質に取られ、グルニア軍のもとで戦わされていました。その恨みは、決して消えてはいないでしょう。ニーナはグルニアに寛容であり、アストリアとしても騎士の誇りから敗者をことさらに痛めつけることを望みはしなかったでしょう。
 その一方で、祖国を蹂躙したグルニアに対し割り切れない想いもあったはずです。だからこそ、グルニアの味方をしてアカネイアに楯突いたマルスに対し、失望とともに強い怒りが沸いたのでしょう。アリティアが建国以来アカネイアに従順でもっとも強い忠誠心を示してきた国であったことも、怒りに火をつけた要因だったのかもしれません。

 アリティア陥落後、マルス達はマケドニア軍と協力し、グルニアを解放しています。マケドニア側は、クーデターが帝国の隠謀と明らかになったことで、恩義あるマルスのためアリティア解放に尽力していたのです。
 しかし、アストリアはその流れを知りません。アカネイアにとっての仇敵であるグルニアを支配下に置いたこと、さらに、グルニアと同じくドルーアに与していたマケドニアとともにアカネイアに反逆したこと。これらの情報は、ハーディンが主張する「マルスの野心」を裏づけるものでしかなかったのです。

† 「マルスの世界征服」というストーリー †

 アストリア達がマルスの反逆を信じてしまったのは、彼らの得ている情報が偏っており、なおかつ歪められていたことが大きな要因です。
 これに加えて、暗黒戦争後のマルスに対するネガティブな捉え方が影響していたと考えられます。マルスは「アカネイア王女からエムブレムを託された」という英雄性ゆえに、「反逆者」の汚名を着せられてしまったのでしょう。

 マルスは暗黒戦争を終結させた最大の功労者です。亡命したマルスが立ち上がったことで、諸国はドルーアの支配下から解放され、さらにメディウスを討つことができました。マルスなくしてアカネイアの再興はありえず、早晩、世界は滅びていたでしょう。それは大陸中の人々が認識している事実です。
 しかし、その功績に反し、マルスには報奨らしきものが与えられませんでした。

 同盟軍において第二の勢力を持つオレルアンは対照的な存在です。戦後まもなくハーディンがニーナに迎えられ、第24代アカネイア王となりました。これは、オレルアンにとってもハーディン個人にとっても最大の報奨と言えるものでした。
 また、ドルーアに与した国であっても「炎の紋章のもとに集った者」に対しては報奨は与えられています。グルニアもマケドニアもアカネイアの占領下に置かれず、ロレンスとミネルバそれぞれに統治が許されました。

 アリティアの場合、「グラ併合」が報奨と捉えることができます。グラはもっぱらアカネイアを害した国で、解放戦争になんの貢献もありません。ゆえにグラ併合はアリティアにとっては報奨、グラにとっては処分だった、という見方も可能です。
 しかし、のちにグラはアカネイアに返還された上で独立が許されています。グラ返還の経緯は不明ですが、アリティアになんらかの落ち度があったわけではないでしょう。にもかかわらず「報奨」を取り上げたとなれば、両国の間に軋轢が生まれてもやむをえません。グラ併合が報奨でないとすれば、マルスは功績にふさわしい報奨はなにも与えられなかったこととなります。

 そもそもこの「報奨」問題は、アンリの時代まで遡ることができます。
 百年前、メディウスを倒したアンリはその功績によりアリティア王となりましたが、平民ゆえに軽んじられアルテミス王女と結ばれることは叶いませんでした。
 一方、エムブレムを託されたカルタスは、アルテミスと結ばれアカネイア王となりました。伝説の神剣を授けられたアンリと比べれば、カルタスの英雄性は見劣りするものですが、アカネイア王家にとってはエムブレムを託されたという事実が重要視されたのです。

 もっとも、当時は五百年の歴史を持つアカネイア聖王国が神聖視されており、そのアカネイアから一地方が独立し平民が王となるなど異例のことでした。そのため、アンリについては充分な報奨が与えられた、と言えないこともありません。しかしマルスは、アンリとカルタス両方の功績を持ち、なおかつアリティア王太子という身分があるにもかかわらず相応の報奨を得られませんでした。
 一通の命令書でグルニア遠征に借り出されたことにしても、その功績に見合った待遇を受けているとは言えません。裏切り者のラングにさえ「弱小国の王子」呼ばわりされており、戦後のマルスの扱いは「冷遇」といってよいものです。あえて解放三英雄に例えるならオードウィン将軍並みの扱いでしょう。

 暗黒戦争後のマルスはアカネイア王となってもおかしくない人物でした。しかしマルスは荒廃した祖国の復興だけを願っており、苦楽を共にしたシーダが傍にいればそれ以上に望むことはなかったでしょう。
 しかしながら、どこにでも穿ちすぎた見方をする者はいるのです。アカネイア王にさえなりえたマルスが、アリティア王で満足するのだろうか。本当はアカネイアを侵略しようともくろんでいるのではないのか。
 マルスが無欲であることが却って不審を煽り、ハーディンが喧伝する「マルスの世界征服」というストーリーが信じられてしまったのかもしれません。

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